ねこのすっぱ抜きサラダ 吉田篤弘・音・浩美
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十字路のあるところ 吉田篤弘

 5・5点

雨を聴いた家……甘い水を求めて<梯子橋>のアパートに引っ越した小説家。その部屋に昔住んでいたという女を待ち続ける大家と、大家を忌み嫌う女の妹とのあいだで板挟みにあって……。
水晶萬年筆……影に魅入られた画家。おでん屋の女将さんへの淡い恋心……。
ティファニーまで……奇妙な言語感覚で綴られる言語研究家の日常風景。「天才柳沢教授の生活」みたいなユーモラスな一編。
黒砂糖……アスファルトの割れ目に種を植える「黒い詩人」。「アスファルトの下に森がある」。良い吉田作品に出くわした。心地よい詩のような一編。
アシャとピストル……カラス射ちの嫌疑をかけられたアシャ。アパートの天井裏からピストルが出てきて……。
ルパンの片眼鏡……嘘か真か? 隠遁したルパンとその弟子の物語。盗んでばかりいた宝を、強盗ならぬ強返して返還してやろうというのだが……。

 すべての短編の終わりに「十字路の探偵」という写真と文章による掌編がついている。本作は文庫化されているが(水晶萬年筆、中公文庫)、文庫版からは十字路探偵は削除されているので注意。
 さて、感想をひとつ。
 酷評した「78」を読んで食傷気味となり、また読書が嫌いになってしまったのではないかと疑っていたのだが、本書を読んで、それも杞憂に終わった。ユーモラスな「ティファニーまで」で笑いをさそい、「黒砂糖」でほんわかとした気分にさせてくれた。やっぱりぼくは、一人の作家のファンとなってすべての作品にバンザイするタイプではなく、個々の作品によって評価を浮き沈みさせるタイプのようだ。フフフフフ……。

百鼠 吉田篤弘

 5点

一角獣……いい歳をしてバッジ作りに夢中の兄。そんな兄が突然結婚の話をちらつかせて……。大人の恋愛と幼児性を表裏一体に描いた佳作。
 これは果たしてそんなに単純な物語なのだろうか? あとがきにある「一人称と三人称に関わるテーマ」とは何か? 残念ながら、ぼくにはそれを読み取る力がなかった。テーマを引き継いだという『小さな男*静かな声』に期待しよう。

百鼠……作家に啓示を与える朗読鼠。一人称を禁じられ、常に三人称を強要されていたのに、担当していた作家が一人称を使いはじめて……。
 ジョージ・オーウェル作『1984年』を彷彿とさせる検閲モノの一種であり、どこかフィリップ・K・ディックを思わせるSF的な寓話。著者の本を読んだあとは久しぶりにディックでも……と思っていたので、ちょうどいい息抜きになった。

到来……現実の自分と、小説家の母の手になる「彼女」という分身のあいだで揺れ動く「わたし」。毛嫌いしていた母との再会で、そんなしがらみも無事ほどけて、また明日という日を生きる活力をもらう。前向きになれる一編。

針がとぶ 吉田篤弘

 5・5点

針がとぶ……亡くなった叔母の遺品を整理する話。
金曜日の本……作中作と現実の奇妙な符合に踊らされるクローク係の話。
月と6月と観覧車……暇を持て余した駐車係と一匹の猫の遠回りな友情。
パスパルトゥ……地の果ての何でも屋「パスパルトゥ」と画家の交友。

 なんだろう。不思議な短編だ。深夜に、眠たいながらもページをめくり、その手がとまらなくなった。優秀な小説は時間を忘れさせる。あらためて思い知った。起承転結のある、いわゆる「オモシロイ小説」ではない。ただ静かに文章が流れていく。ぜひご一読あれ。

少しだけ海の見えるところ……「針がとぶ」の叔母の日記。日記の断片から、詩人である叔母の人となりがよく伝わってくる。
路地裏の小さな猿……作家が集う街・EDGE。彼らが書こうとしているのは……。
最後から2番目の晩餐……旅の写真家と家族を失った青年の短い邂逅。雰囲気だけで小説を書くのもいいが、これはいただけないと思った。3点。

 総評……いい作品とそうでもない作品が混在していた。評価としては「佳作」。心に残ったのは、やはり「パスパルトゥ」である。普段、あまり本を読みかえすことのないぼくが、確認のためもう一度再読してみた。いや。やはり、これでいいのだ。やっぱりぼくは、この短編を気に入ったようだ。不思議な、魅力のある作品だとぼくは思う。皆さんはどうでしょうか?
 

つむじ風食堂の夜 吉田篤弘

 6・5点

 つむじ風食堂に集う常連客と、今は亡き父親の群像を描いた180頁あまりの短い長編小説。一頁の文字数も少なく、あっという間に読み終えました。「おもひでぽろぽろ」のような読後感。
 この物語の中心にいるのは、「雨降り先生」と呼ばれる主人公と、彼に好意を抱きつつある女優の奈々津さん、そして、今は亡き主人公の父親である。
 読んでいて思ったのは、これは青春の物語なんだ、ということ。奈々津さんとの恋愛未満の淡い交流はもちろん、虹をつくる物語を書こうとしていたという亡父の姿からも青春の匂いを嗅ぎ取ることができた。晩年になって、唐突に「小説を書いているんだ」なんて、なかなか言えませんぜ、だんな。。。
 主人公は、そんな父親の面影を追いかけて、昔よく通った劇場へと足を運ぶ。そこで出会ったのは、若かりし頃の父を知っているという喫茶店のマスター。父が見せた、家(ウチ)の顔と外の顔。
 今にして思えば、”あの頃”の父は、今の自分とそう変わらない年齢ではないか……。
 大人になった自分、青年だった父……。ノスタルジックな気持ちになれる作品でした。

フィンガーボウルの話のつづき 吉田篤弘

 6・5点

「世界の果ての小さな食堂の話」を書きたい「私」ではあったが、なにぶん一行目の言葉すら思い浮かばない。そんなときに出会った幻の作家「ジュールズ・バーン」。彼が遺した未完の小説と、ビートルズのホワイトアルバムにインスパイアされて、「私」は12の物語を紡ぎだす……。

ジョン・レノンを待たせた男……今は亡き叔父の回顧録。
閑人カフェ……レインコートの詩人の話。
私は殺し屋ではない……思わず笑みがこぼれる「殺し屋のラスク」。
その静かな声……小さな放送局から流れる静謐なラジオ。
キリントン先生……東京の下町に暮らす音楽家と少年のひそかな交流。
小さなFB……流れ星に捧げるささやかな願い事。
白鯨詩人……余白にとりつかれた詩人の話。
ろくろく……ナルコプレシーの映画青年。
フェニクス……小説家の夫人の心構え。
ハッピーソング……自分を見失いかけたシンガー。
ピザを水平に持って帰った日……屋根裏部屋とピザとビートルズの話。
フールズ・ラッシュ・イン……シナトラ食堂と老犬、女王様のフィンガーボウル。

 クラフト・エヴィング商會のメンバー、吉田篤弘氏の本。
 静謐でノスタルジックな作品が多い。
 なかでも「静かな声」の透明な世界観が愉しい。孤独な夜、孤独なリスナー、孤独なラジオ……。やがて孤独な者同士が出会い、心の交感を覚える。「孤独だっていいじゃない」と説いているにも関わらず、その言葉の発信者とリスナーはラジオを通してつながっている。ハートウォーミングな一編。
ピザを水平に……」のぎこちない友情は、かつての少年なら誰しも経験したことがあるのではないだろうか。新しい友達づくりの一瞬が描かれている。インフルエンザで学級閉鎖になったことをきっかけに、今まで話したこともなかった二人の少年が交友を深めていく。外国からの帰国子女である級友の家は目新しい物ばかり。屋根裏部屋、見たこともない宝(レコード)の山、初めて食べるピザの味……。郷愁をかきたてる、どこか懐かしい一編。
フールズ・ラッシュ・イン」。母親に毛嫌いされている食堂は父のお気に入り。毎週日曜になると、父は子供を伴ってシナトラ食堂に足を運ぶ。大人の雰囲気の中で、子供はちょっと退屈な時間を過ごす。店の隣りでは顔なじみの老犬がふて寝している。店主が語るおとぎ話は、父の気まぐれで中断したまま、尻切れトンボで終わってしまう。
 これを読んでいると、今は亡き父を思い出す。お互いシャイで、あまり会話を交わすことはなかったが、晩年になって父の新たな側面を知った。事情があって父と母は別居していたため、父が病に倒れるまで一緒に暮らしたことがなかった。同居してはじめて、父が読書好きであり、ぼくのマンガを読んでいたとか、テレビゲームをやりたがっていたことを知り、かつてあんなに大人だと思っていた父が、自分と大して変わらない「少年」なのだと気がついた。その「少年」が亡くなったことが、なんだか今でも信じられない。どこかでひょっこり生きてるんじゃないだろうか? ひょっこりと……。
 話がそれた。この短編は、忙しい父と過ごせるたったひとときの時間を切り取ったポートレートである。この本の中でもっとも好きな物語です。ぜひご一読あれ。
 ちなみに、文庫化されるにあたって最後の一編が追加されたとあったから、文庫版の方をおすすめします。
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6点は佳作。
5・5点は好みによる、といった感じです。

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