ねこのすっぱ抜きサラダ 伊藤計劃

The Indifference Engine 伊藤計劃

The Indifference Engine (ハヤカワ文庫JA)
岡和田 晃
早川書房(2012-03-09)
売り上げランキング: 22187

6・5点
本書は伊藤計劃がものした短編小説集である。

女王陛下の所有物……007へのオマージュ作品。(漫画)
The Indifference Engine……民族紛争に翻弄される少年兵の話。
Heaven scape……虐殺器官と対をなす物語。
フォックスの葬送……虐殺を扇動する米兵がいるという。その真相とは?
セカイ、蛮族、ぼく……蛮族の汚名を着せられた少年を描くショートショート。
A.T.D:Automatic Death■EPISODE:0……孤独なバイオテロリストの肖像。(漫画)
From the Nothing,With Love……魂をコピーされ、永遠に再生させられるスパイの話。
屍者の帝国……死者に魂をインストールして甦らせることのできるIFの世界。盟友である円城塔の手で長編化された物語のプロローグ。

日本SF界にとどまらず、日本の文壇は惜しい才能を喪ったものだとつくづく思い知らされる、思弁性を秘めた短編群。The Indifference Engineは、戦争の悲惨さがひしと伝わってくる作品。単なる反戦という枠組みを超越して、戦争というものがこの世には確かに存在しているんだ、ぼくらと同じ”人間”が、今この時も地獄のような生活を送っているんだ、と実感させられる。
そしてもう一つ、著者が関心を抱いていたのは、From the Nothing,With Loveなどで描かれている”意識”の問題だろう。人間という一生物にとって意識とは何か、そして”魂”の本質とは? この問題は、長編『ハーモニー』にも引き継がれている。
平和な日本にあって、なかなか意識しないテーマに「目を向けろ!」と言わんばかりに、その卓越した超絶技巧でもってグイグイ差し迫ってくる。魂とは何だ、意識とは、心とは、命とは!?
命というものに直接向き合った著者ならではの緊張感(テンション)が、このリーダビリティを生んでいるのだろうか? 伊藤計劃なくして今後のSFは語れない。読みごたえじゅうぶんな一冊です。

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theme : SF小説
genre : 小説・文学

tag : SF 感想 レビュー

ハーモニー 伊藤計劃

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
早川書房(2010-12-08)
売り上げランキング: 3568

8点
体内に微小なロボット”ナノマシン”を容れることによって健康を管理される世界。アルコールやニコチンを摂取すると、生府(政府の垣根を越えた組織)に通報され、罰せられてしまう。人類は、プライバシーを喪うことによって、”管理された自由”を享受している。
そんな世界に嫌気がさした女子高生が集団自殺を試みるものの、死ぬことに成功したのはただ一人、ミァハだけ。
13年後、医療軍に従事しているトァンの目の前で、全世界同時自殺が発生する。病気のなくなった健全なユートピア世界で、なぜ、自ら死を選んだのか?
人類を管理するシステムは、是か非か? 体調を完璧にコントロールするシステムが人類にもたらすものとは?

自由とは何か?
病を駆逐するために、常にメディカルチェックされ、栄養管理も万全の状態に保たれる。病気によって人の行動は制限される。それは病によって自由を奪われるということ。では、病気にならないように体調を管理されるとしたらどうだろう? 好物の肉ばかり食べていると、管理システムから警告が出る。しぶしぶ野菜を摂取してはじめて健康という自由が手に入る。それははたして幸せだろうか? しかも、健康管理は肉体だけではなく、精神面にも及ぶ。映画や小説からは過激な描写が削除され、前時代のフィクションは閲覧を禁じられてしまう。誰もが平均的な体型を維持し、平均的な思想を抱いている。そんな社会はユートピアか、ディストピアか?
なにも生まれたときから管理されているわけではない。成長期の子供たちは常に細胞が変異しているため、ナノマシンによる管理はできない。したがって、自由を謳歌できるのは子供だけ。だからこそ彼女たちは自殺を図らなければならなかった。管理されないため、しいては”自由”のために。
体の仕組みがすべて解明されたとき、人類が自由と引き換えに「失うべきもの」が明らかになる。人類にとって邪魔なもの=無駄なものとはいったい何なのか!?
『虐殺器官』を遥かにしのぐ驚愕の世界が待ち受けている!
本書は独立した物語ではありますが、虐殺器官以降に成立した世界設定になっているので、順番に読んだ方がおもしろい。作風はまったくの別物で、『ブギーポップ』シリーズのようなシニカルなヤングアダルトものとしてはじまり、人類全体を巻き込む壮大なスケールに発展し、深遠なテーマを残して幕を閉じる。SF界にとどまらず、文学史に名を遺す傑作です!

theme : SF小説
genre : 小説・文学

tag : SF 感想 レビュー

虐殺器官 伊藤計劃

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
早川書房(2010-02-10)
売り上げランキング: 2995

7点
世界中で繰り広げられる大量虐殺の影に、その男はいた。
ジョン・ポール。果たして彼は何者なのか?
近未来のテクノロジーによって無痛化された暗殺者”ぼく”は、ジョン・ポールの足跡を追ううちに、人類を突き動かす虐殺器官の存在にたどりつく。世界は、そして人類は、戦争を止めることができるのか?

物語は、スパイ小説として幕を開ける。
テロ以降の世界が傾きつつある、過度なまでの個人情報管理社会。痛覚を無効化させるパウチ。網膜に投影される膨大な情報。傷口を自動で修復するナノマシン……。なんだ、近未来アクションものか、はたまた戦争シミュレーション小説か、と思って読み進めると、物語は中盤からラストにかけて、とんでもない大化けをかましてくれる。
ジャンルとしては、言語SF(そんなのあるの? あるんです! 神林長平『言壺』、川又千秋『幻詩狩り』、山田正紀『幻象機械』も入れちゃっていいかな?)なのだが、謎の男”ジョン・ポール”は、かつてない壮大な計画を内に秘めていた!
読了後、思わず長い溜息が出る。押井守の『イノセンス』に、神林長平の『戦闘妖精雪風』のエッセンスをくわえた感じ。
SF評論家・山岸真が言うように、本書は「9・11以降の時代を真正面から見すえ」た、テロがテーマの作品。どうすればテロをくいとめられるか、大胆な大仕掛けを用いて果敢にアプローチしている。それが是か非かは置いといて、一フィクションとして素直に楽しむべきだろう。
奇しくも今日、アメリカでテロとみられる爆発事件が発生しました。この作品のレビューを上げるべきかどうか迷う部分もありましたが、これも一つの運命だろうということで、アップすることにしました。間違いなくオールタイム・ベスト級の作品です。
作者は、2009年に34歳の若さで亡くなりました。あまりにも惜しい! 悔しい! 文壇にとってかけがえのない才能を失ってしまったのは大きな痛手だと思います。
解説にいわく、「両足がなくなってもいいから僕はあと二十年、三十年生きたい。書きたいことがまだいっぱいある」
もっともっと長生きをして、もっともっと強烈なインパクトを遺してほしかった! 伊藤計劃最高!
目下えんまるは、引きつづき、第二長編『ハーモニー』をひもといております。まだ途中までしか読んでませんが、これもまた傑作の予感。しばし待たれよ!

theme : SF小説
genre : 小説・文学

tag : SF 感想 レビュー

屍者の帝国 伊藤計劃×円城塔

屍者の帝国
屍者の帝国
posted with あまなつ on 2012.09.15
河出書房新社(2012-08-24)
売り上げランキング: 175

6点
19世紀ロンドン。魂をインストールすることによって屍者をよみがえらせることができる世界。ただし、よみがえった屍者は意思や意識といった精神面が欠如しており、脳を使ったコンピュータとして扱われている。英国諜報員ワトソンは、意識を有しているとされる新型屍者の謎を究明すべく、アフガニスタンや日本に派遣される。その背景に存在をちらつかせる「ザ・ワン」とは何者なのか? 伊東計劃の遺稿を芥川賞作家・円城塔が長編化したスチームパンク冒険活劇!

若くして逝去した伊藤計劃。彼が書き残した30ページあまりのプロローグを、盟友・円城塔が完結させたのがこの作品。伊藤計劃の作品を読むのはこれがはじめてなので、どこからどこまでが彼のカラーで、どの辺りが円城塔の色ということになるのかわかりませんが、読む前に聞いていた評判(軒並み高評価)から抱いていた期待よりは評価は低めだった。
円城塔は、以前、短編を読んだことがあるのだが、好みに合わない作風だった。いく分危惧しながら本書を手に取ったものの、作品ごとにスタイルを変えているようだったので、読むのに苦労はしなかった。
本書の特異な点といえば、屍者をコンピュータとして扱うというアイデア。まるでパソコンのように、プログラムをインストールして機能をアップさせるという設定で、主人公はお付きの屍者を電子辞書や翻訳マシンとして使っている。その一方で各国政府は、不死身の兵士として屍者を利用しており、意図的に虐殺を行って兵員を調達している。
不死身の体を得られるのなら喜んで死んでやろうという人もいるかもしれない。しかし、たとえよみがえったとしても、意思を持たないでくの坊になるのでは割りに合わない。物語は、意思を持つ新型屍者の開発に向かって動き出すのだが、その技術を有しているのは伝説として語り継がれている存在「ザ・ワン」だけ。はたしてザ・ワンとは何者なのか?
もう一つ興味深いのは、ワトソンやヴァン・ヘルシング(ドラキュラに登場するモンスターハンター)、カラマーゾフ、リットン調査団など、実在した人物やフィクションのキャラクターが虚実入り乱れて登場するところ。19世紀虚実混交オールスターみたいで楽しい。
魂とは何か、という考察についてはあまりピンとこなかったのですが、スチームパンク(電子機器ではなく、蒸気機関が発達していたら、という設定)の世界はえんまる好みで◎。スチームパンクといえば”鋼の錬金術師”。ハガレンは賢者の石で不死に挑んだが、こちらは屍体改造技術で永遠の命にアプローチしている。バイオハザードを彷彿とさせるバトルシーンもあって、飽きさせない内容になっています。お試しあれ。

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genre : 小説・文学

tag : SF 感想 レビュー

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採点は10点満点です。
6・5点以上がおすすめ。
6点は佳作。
5・5点は好みによる、といった感じです。

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