ラピスラズリ 山尾悠子
7点
寡作の作家、山尾悠子が描く滅びの物語。
銅版……ふらりと立ち寄った画廊で目にした三枚の銅版画。そこに描かれているのは、本書に収録されている物語を象徴する”冬眠者”の姿だった。
閑日……城に暮らす冬眠者と亡霊の出会いの物語。
竈の秋……廃れゆく冬眠者の滅びの物語。
トビアス……滅亡の危機に瀕した日本。孤独に陥る一人の少女の物語。
青金石……1226年。フランシスコ会を興したフランチェスコと冬眠者の青年の邂逅。
巻頭を飾る「銅版」には、後につづく「閑日」と「竈の秋」2篇の連作短編を連想させる銅版画が登場する。城に暮らす冬眠者と、彼らに仕える使用人の物語である。残りの2篇もテーマは共通しているが、舞台設定が大きく異なる。
冬眠者たちは、決して人類よりも優れた存在ではない。長い冬眠のあいだはきわめて無防備で、人類の助けがなければ生き永らえることはできない。そういった意味では、彼らの足場はもろく、強者であると同時に弱者でもあるといったところだろう。
「トビアス」は前の2篇よりも現代に近い日本が舞台。ここでは冬眠者は明らかに、弱者=マイノリティとして描かれている。主人公いつきがこの後どういった運命をたどることになったのか、作者はあえて語ろうとしない。しかし、この先に幸いが待ち受けているとは思えない。
「青金石」の舞台は1226年であり、冬眠者は異端としてあからさまに忌み嫌われている。”メトセラ(不老長寿)”は科学が発達するとともに表舞台から姿を消し、人類が滅亡の危機に瀕したときにふたたび人々の前に現れたのだろう。そこではじめて、人類とメトセラの立場が逆転し、使用人を抱える一国一城の主にまで上り詰めたと考えられる。しかしその栄光も長続きはしなかったとみえて、物語は静かな終焉へと向かって収束していく。
全編を通して感じられるのは、静謐な空気感である。小川洋子さんの文体を思い浮かべてほしい。両者に共通するのは、硬質で清涼な世界観である。この優れた作家が長期にわたって休筆していたというのは実にもったいない気もするが、その期間すらも彼女の作品をより神秘的に魅せることに一役かっていると言えるだろう。彼女の作品は国書刊行会から「山尾悠子作品集成」として一冊にまとめられている。読みたいけど、高価すぎて(9240円)手が出ない。。゚(ノД`)゚。
幻の作家のカムバックを強く望む! 過去の作品も読みたいが、ぜひとも新作もお願いします!

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